「長年会社を支えてくれた人に、どんな仕事をお願いすればいいのか分からない」。経営者や管理職の方から、こうした声をよく伺います。役職を後進に譲った方、年下の上司のもとで働く方、現場一筋で経験を積んできた方。ベテラン社員は豊富な知識と人脈を持ちながら、その力が十分に活かされないまま、本人も周囲も遠慮し合っている――そんな光景は珍しくありません。しかし、ベテランが持つ経験は、若手が何年もかけて身につけるものです。それを個人の中に眠らせておくのは、組織にとって大きな損失です。今回は、ベテランの経験をチームの資産に変えるための3つの視点を紹介します。
「何をしてもらうか」ではなく「何を残してもらうか」
ベテランの処遇を考えるとき、多くの組織は「どの業務を担当してもらうか」から考えます。もちろん実務の担い手としての力は大切ですが、それだけでは若手と同じ土俵で比べられ、本人も居場所を見失いがちです。発想を変えて、「この人の経験のうち、組織に残したいものは何か」から役割を設計してみてください。
たとえば、難しい顧客との関係づくり、トラブル時の初動判断、社内の誰に何を相談すればよいかという人脈の地図。こうした暗黙知は、マニュアルには書かれていないことがほとんどです。明日からできることとして、ベテラン本人と15分ほど話し、「若手がつまずきやすい場面を3つ挙げてもらう」ことから始めてみてください。それが、その方にお願いすべき役割の出発点になります。
年下の上司こそ、最初の対話を丁寧に
ベテランが力を発揮しにくい背景には、関係性のぎこちなさがあります。特に年下の上司にとって、かつての先輩や自分より経験豊富な部下に指示を出すのは気が引けるものです。その遠慮が「任せきり」や「何も頼まない」につながり、結果としてベテランは蚊帳の外に置かれてしまいます。
大切なのは、立場の違いを曖昧にせず、最初に率直に話すことです。「チームの方向を決めるのは私の役割です。そのうえで、○○さんの経験を借りたい場面がたくさんあります」と、役割の線引きと敬意を同時に伝える。さらに「私の判断で気になる点があれば、遠慮なく言ってください」と一言添えると、ベテランは安心して意見を出せるようになります。対話の最初の数分が、その後の関係を大きく左右します。
経験を「伝わる形」にする仕組みをつくる
ベテランに「若手を育ててほしい」とお願いしても、うまくいかないことがあります。本人は教えるつもりでも、経験則は言葉にしにくく、「見て覚えろ」になってしまうからです。ここで必要なのは、本人の努力に頼るのではなく、経験が自然と伝わる場を組織が用意することです。
具体策としては、週に一度、若手が直面している案件をベテランに相談する「15分の壁打ち枠」を設ける方法があります。教える側も「自分ならこう考える」と具体的な状況に即して話せるため、伝わりやすくなります。また、ベテランが過去に経験した失敗談を月に一度チームで共有する場も効果的です。成功談よりも失敗談のほうが、若手にとって再現性のある学びになりやすく、ベテラン自身も「役に立っている」という実感を得られます。
まとめ ― 世代をつなぐ組織が、長く躍動する
ベテランの活かし方は、単なる処遇の問題ではなく、組織の知恵をどう次世代へつなぐかという問いでもあります。「何を残してもらうか」から役割を考え、最初の対話で敬意と線引きを伝え、経験が伝わる場を仕組みとして用意する。この3つがそろうと、ベテランは再び意欲を取り戻し、若手は成長の近道を得て、チーム全体が厚みを増していきます。Earth Compass では「躍動する組織を増やす」というパーパスのもと、世代や立場を超えて力を引き出し合う組織づくりを、現場に寄り添いながら伴走支援しています。ベテランの力をもっと活かしたいとお考えの際は、どうぞお気軽にご相談ください。
